今回から2~3回に分けて、インドのカースト制度を紹介したいと思います。
というのも、中学や高校の社会の時間でカーストって習ったけれど、私もインドに行く前はいまいち実感がありませんでした。
でも、行って分かったこと。
インドの貧困、格差の一因はカーストにある。
(もちろんそれだけじゃないですが)
ということで、インドで学んだことに加えて、自分でもデータなど勉強し直しつつ、書いてみます。
目次
1.カーストとは何か?
2.少数派カテゴリー(SC,ST,OBC)と留保制度
3.「少数派」≠社会的弱者
1.カーストとは何か?
カーストとは、インドに古くから存在している、職業をベースにした身分制度です。それこそ何千年も前からの。
(ただ、カーストの現状について説明することが目的なので、細かい歴史などは省きます)
日本の江戸時代の士農工商(そして穢多・非人)と似ているところもなくはないのですが、一番違うのはカーストが宗教的に定められていること。
インドの人口(約13億人)の80%以上はヒンドゥー教に属しますが、基本的にその人たち全員がなんらかのカーストに区別されます。
(実は、それぞれのお家の名字がすでにカーストを表しているのです。)
一番古典的で大まかな階級の分け方が、上から
Brahmin ブラフミン(バラモン):神官
Khsyatriya クシャトリヤ:王・戦士
Vaishya ヴァイシャ:商人
Shudra シュードラ:召使・農民
Untouchable (Dalit):アンタッチャブル(一部でダリットとも呼ばれる)、不可触民(皮革加工や死体の処理を仕事とする)
となっています。
いわゆるカーストとされているのは上の4つで、「ダリット、不可触民」と呼ばれた人たちは人間以下、という扱いでした。
実際は、この大まかな分類が職業によって何千にも細かく分かれています。(サブ・カーストと言います。)
例えば、ブラフミン(バラモン)の中でも、
学者のカースト、占星術師のカースト、司祭のカーストなどなどがあります。
2.少数派カテゴリー(SC,ST,OBC)と留保制度
上の4つの呼び方はまだ日常的に使われていますが、アンタッチャブルの人々の多くは現在Scheduled Caste(指定カースト)という区分が国から定められています(よくSCカテゴリーと言います)。
学校や役所でSCカテゴリーの人たち専用の入学枠・就職枠があります(Reservation/リザベーションと呼ばれる留保制度です)。
そして、SCと並んでよくインドで出てくるのが
ST (Scheduled Tribe) 指定部族
OBC (Other Backward Classes) その他後進階級。
STはカーストとは関係ありませんが、インドには多種多様な民族がいて、一般的なインド人(ヒンドゥスターニ)とは顔も文化も習慣も異なる人々が、たいていこのSTカテゴリーに属します。
例えば、分かりやすいのはインド北東7州。
隣国のミャンマーや中国に接している州もあり、顔立ちが「え、インド人?」といった感じで、むしろ私たち日本人や中国人に似ています。言葉や伝統的な衣装も、いわゆるインドとはだいぶ違います。
(インド北東7州の一つ、マニプールのご家族。一見、インド人に見えなくありませんか?※左から2人目は日本人です。)
OBCはSC・STの後に作られた新しいカテゴリーで、州によっても違いますが、基本的にシュードラ(召使い階級)に属する人々がOBCカテゴリーに入ります。
これらのST・OBCもSCと同じようなReservation(留保制度)の枠を持っています。
このような留保制度はなぜあるかと言うと、SC・ST・OBCのように社会的に力がなく少数派(マイノリティー)の人々に、社会参加の道を開くためです。
(ただし、一部に濫用が見られます・・)
ちょっと数字で見てみましょう。
まず、インドの人口は2019年現在で13.6億人です。
インドの人口の中では、2011年の国勢調査で
SC(指定カースト)が全体の16.6%、
ST(指定部族)が全体の8.6%です(合計でインド全体の4分の1を超える)。
※ちなみに、インドの国勢調査は10年に1回行われるので、次は2021年です。
そして、ちょっとデータが古いですが、2007年にOBC(その他後進階級)の人口が全体の40.9%でした。
ということで、全体でみるとインドの人口の65%以上はこのマイノリティーのカテゴリーに入るというわけです。
3.「少数派」≠社会的弱者
ここで注意したいのは、この少数派カテゴリーに含まれる人たちがみんな貧しくて社会的な弱者ではないということ。中にはお金持ちで社会的に成功している人たちもいます。「少数派」と言うよりは、「歴史的に見て、社会的弱者だった人々が多い層」だと言えます。
(そう言う意味で、家が裕福だけど少数派カテゴリーで大学や役所に入る人たちは、カテゴリー特権の濫用だと見られがちです。)
ちなみに、私の通ったムンバイの大学院はSC・STカテゴリーで入学すると、学費タダでした。(OBCはちょっと分かりません。)実際、学生のほぼ半数がこのカテゴリーだと聞きました。
私の友達にも、この少数派カテゴリーに属していた子たちはたくさんいます。(インドの中でも名実ともに有名な大学院に来ていた時点で、彼ら彼女らは社会的弱者ではないのですが)
でもうれしかったのは、そういうマイノリティーカテゴリーの出身の友達で、「自分の家は別に経済的にも社会的にも困っているわけではないから」という理由で、Reservationの特別枠を使わずにちゃんと一般枠で受験して、入学してきていた子たちもいたこと。心が温まりますね。(汚職いっぱいのインドなだけに)
* * *
次回以降は、もう少し実話を交えながら現代のカーストについて紹介していきたいと思います。なにか質問・コメントなどありましたら、お気軽にどうぞ(^^)
今回の参考ページ
http://archive.indianexpress.com/news/scs-sts-form-25–of-population-says-census-2011-data/1109988/
2019年7月27日 一部改定
コメント
[…] (の前におさらい。インドにはカーストという身分制度がヒンドゥー教徒を中心にいまだに残っており、それが数々の不平等や格差を生んできました。詳しくは・・あまり詳しくもないですが、以前書いたカーストの記事も併せてご覧ください。) […]
[…] ちなみに、過去の記事はこちら。 […]
[…] でも、今回の投稿で分かったのですが、どうやら彼女は指定カースト、つまりかつては不可触民と呼ばれた、4つのカーストよりも下の身分の生まれだったようです。(カーストについて基本的なおさらいから読みたい方は、こちらの記事をどうぞ。) […]
[…] もとの記事はこちらです。 […]