カースト② ~なぜカーストが貧困につながるのか?~

今回は、私がカーストがインドの貧困、格差の主な原因だと思う理由を説明していきたいと思います。

目次

1.なぜカーストが貧困の原因になるのか?

2.高位カースト出身だと、例えばこんな人生になる

3.村で見たカースト

<a href=”https://www.photo-ac.com/profile/1741831“>TK Kurikawa</a>さんによる<a href=”https://www.photo-ac.com/“>写真AC</a>からの写真

1.なぜカーストが貧困の原因になるのか?

第一に、基本的にそれぞれのカースト毎に就ける職業が固定されてきたからです。

下のカーストの人はいつまでも収入の少ない仕事しかできず、上のカーストの人(主に地主)はどんどんお金が貯まっていく・・という構図が農村部を中心に長い間繰り返されてきたのです。

第二に、カーストの高い人は清浄、低い人は穢れている・汚れているという考え方があるためです。

だからこそ、高位カーストの人が低位カーストの人を差別する構図や、「アンタッチャブル(不可触民)=触れてはいけない人々」という概念も生まれてくるのです。

2.高位カースト出身だと、例えばこんな人生になる

一般的にありそうなケースをざっくり創作してみます。

アニタ(女の子)はハリヤナ州(北インド)の都市部出身。

一番上のカーストであるバラモン(神官階級)の家に生まれました。(一般的に、北インドのほうがカースト意識が強いです。)

両親はどちらも大学出。

父親はいい会社に勤めていて、母親は専業主婦です。シュードラ(召使階級)の家からメイドが来るので、母親は掃除・洗濯はしません。場合によってはご飯を作るメイドさんまで雇っています。

家族のメンバーは、基本的にメイドに触りません。

「低いカーストの人間に触れると、自分の身が穢(けが)れる」という偏見があるからです。この清浄/穢れという認識は、ヒンドゥー教の中で長い間重要とされてきました。

アニタの通った小学校~高校は公立でなく私立。English medium(英語による教育)の学校だったので、彼女は母語のヒンディー語と同じくらい流暢に英語が喋れます。

彼女は少なくとも大学まで進学します。

ハリヤナ州は首都デリーにほど近いため、デリーの大学に進学して、大学近くのアパートの部屋を女子数人でシェア。

アパートの部屋にはメイドが来て、掃除・皿洗い・洗濯をしてくれます。

親が仕送りをしてくれるので、アルバイトをする必要はありません。

大学を出ると21歳くらい。(インドの文系の大学は3年間、理系は4年間です。)

アニタはデリーの会社で仕事を始めます。

そして、結婚適齢期(北インドの女性なら23~24歳、男性はもう2~3歳上)にもなれば、親が同じ地域または州(これがけっこう重要)のバラモンの中から適当な家の結婚相手を見つけてきます。

子どもが親の決めた結婚にどれだけ抵抗できるかできないかは、その家族がどれだけ保守的/リベラルかによります。

・・とまぁ、上にあげたのは典型的な例なので、家族によって異なりますし、南インドや東北部ではまた話が変わってきます。

それでも、「自分たちのコミュニティの中で結婚」というのは、どこでも好まれます。

結婚のトピックについてはまた書きますが、このように同じカースト(コミュニティ)内で人々が固まっていることで、別のカーストとの溝が出来ていきます。

3.村で見たカースト

ここでは、私がインド東部・オリッサ州での農村実習(2013年4月上旬に実施)で見てきた状況をご紹介します。

この実習は、大学院のソーシャルワーク「子どもと家族」クラス26人が4~5人のグループに分かれ、村で2週間お家に泊めてもらいながら、村の子供や家族の状況について聞き取り調査をする、というものでした。

トイレはどこか外で、お風呂は井戸の横で服を着たままどうぞ・・という状態でしたが、ごはんもおいしく(ムンバイのより辛くない)、人もあたたかで(言葉はほとんど通じませんでしたが)、とても良い体験でした。

その村は、近くの町から車で40~50分行ったところにあり、前回のカースト①に出てきた部族(トライブ)中心の村なのですが、文化的にはずいぶん昔にヒンドゥー教を受け容れていました。

(そうでなければ、部族の人たちは自分たちの宗教を持っていたり、またはキリスト教を信仰している場合もあります。)

●村のカースト

1000人ほどの人口がいる中で、村は主に3つのカーストに分かれていました。社会的地位が高い順に、

①ナイク・・村の主要な人口を占める。指定部族(ST)。

②マハント・・少数派だが、地主でもあり村で一番豊かな人々。部族ではない。

③ムンダ・・貧しく、識字率も低い。指定部族(ST)。

一般的な北インドの村では、もっとたくさんカーストがあるらしいのですが、ここは部族(トライブ)メインの村だったので、こんなに単純な構成でした。

この3つ以外に、村に2件だけ指定カースト(SC=元不可触民)の家もありましたが、数が少なすぎて特に目立った偏見や差別はないようでした。(これはインド的には珍しいと思います。)

●カーストの実情

まず、3つのカーストの人々が、カースト毎にかたまって住んでいました。家の造りもそれぞれに違っていて、お金持ちのマハントとナイク(数件)の家々はセメント造りでしたが、あとの家は泥とレンガ造りでした。

特に上のカーストが下のカーストを差別していて、たとえばナイクの子供たちは『マハントやムンダの子と遊ぶな』と言われているし、マハントの子供も『ほかのカーストのことは遊ぶな』と親から言われていました。

村人たちにとって重要なイベントの一つである結婚式にも、基本的に他のカーストの人たちは呼びません。まれに誰かが違うカーストの家族の結婚式に出たとしても、その人はそこで食べ物を食べません。(上に出た清浄/穢れの考え方の影響です。)

ひとつ、今でも記憶に残っている光景があります。

私は、実習で泊まらせてもらった家のお向かいさんの、マハントの女の子ラシュミタ(15歳くらい)と友達になって、よく彼女の家に遊びに行っていました。そのお家には電気が通じていてTVもありました。

(村で電気が通っている家は少なかったです。泊まっていた家にも電気はありましたが、しょっちゅう停電していました。)

そして、夕方ラシュミタや彼女のお父さんお母さんと一緒にTVを見ていたのですが、気付くと、窓の外に子どもがいっぱい・・。TVのない家の子供たちが窓の外に鈴なりになって、お金持ちの家のTVを立ち見していたのです。

私にとっては、「格差」「貧困」を印象付ける衝撃的な出来事でした。

外から鈴なり

(裕福なマハントの家の外で、鈴なりになってTVを見る子どもたち。)

●教育と仕事

村全体の識字率は45%でしたが、マハント→ナイク→ムンダの順に下がっていました。村には5年生までの小学校が一つしかなく、それより上の学校に行くには、自転車などで隣の村へ行くしかありません。

マハントの家では娘たちを私立学校→大学に通わせていました。このようにマハントやナイクの家の子供たち(男の子を中心に)はわりとその上まで進んでいたようですが、そうでないと勉強をやめて家の手伝い(農業)をするしかありません。

他の仕事をするにも、村にはマハントの人がやっている小さなお店が一つあるだけ。マーケット(スーパーマーケットではなく市場)は3~4km先、町は30km先です。男の子なら出稼ぎにも行けますが、女の子は家にいるしかありません。(そして20歳前には結婚・・。)

●まとめ・・カーストと貧困

農村部ではこのように、それぞれのカーストが子供たちの未来をほぼ固定してしまっています。(カースト以外にも、小学校より上の学校が村になかったり、村が町やすべての施設から離れていて、あらゆる機会が村人にない、という問題などもありますが。)

都市部でも、教育による格差は歴然としています。

(そして、どれだけ子供に教育の機会を与えられるかも、その家族のカースト=職業=収入によって変わるのです。)

カーストの低い、貧しい家庭の子供は、質の低い公立学校にしか行けず、しかも8年生からは試験があるので、それに受からなければ進級できません。そして、学歴の低いままでは、収入の高い仕事には就けません。

結果として、女の子なら早く結婚して主婦、そして中流階級の家のメイド(お掃除・洗濯)になるでしょう。

(ちなみに、インドの中流以上の家庭では、よくメイドを雇っています。私のいた家にも来ていました。3部屋掃いて水拭きして、お給料は月に500ルピー。約800~1000円。その人は他の家も掛け持ちしてました。日本人からすると違和感がありますが、労働力が安く、かつ楽なのでけっこうみんな使っています。本当はこれが格差の元なのですが。)

そして、男の子なら小さな商店の小間使い、レストランのお皿下げ係・・等々に従事することに。

大人になっても、スキルのないままでは収入の高い仕事は見込めません。

よくインドの都市で見かけるのは、ウォッチマン(またはセキュリティ・ガード)と呼ばれる、アパート・マンション・ビルの1階にひたすら朝から晩まで座っているおじさん・おじいさんたちです。メイドと同じく安価な労働力の象徴です。

だからこそ、教育を充実させて、低いカースト出身の子供たちに様々な職業に就く機会を提供してゆくことが大切なのです。

テレビみたいのよ

(先ほどと同じく、マハントの家の外で。)

2019年7月30日 一部改定

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