私とメジはフィールドワーク先のムンバイの小学校で、貧困家庭から通う女の子たちのために英語のレッスンをしてほしい…と言われていた。
今回は、その「英語」を通してインドの社会について考えてみたい。
目次
・子どもたちが使うことば
・先生たちの英語レベルから透けて見えるN G O本部の思惑?
子どもたちが使うことば
そもそも、私とメジがフィールドワークで通っていた小学校は、
Marathi medium school(マラーティ語で教科を教える学校)
だった。
マラーティ語は、私がいたムンバイのある、マハラーシュトラ州の言語。
だから、小学校で出会った女の子たちの母語はマラーティ語。
そうは言っても、彼女たちはインドで多くの人が話すヒンディー語も、小学生にして既にほぼ理解していた。
(その理由は多分、T Vでもヒンディー語の番組がたくさんあるし、街中でもヒンディー語を話す人はたくさんいるから。きっと生活の中で自然に覚えたんだろう。インドはとにかく他言語社会で、2〜3言語話せる人は珍しくない。)
そんな彼女たちでも、英語に関しては別の次元の話だった。
女の子たちは、簡単な英語の挨拶や単語はけっこう知っていて、日本人よりも英語になじんでいた。
それでも、私とメジの英語レッスンの中で、英文を音読するのが苦手な子が多かった。英語は文法がヒンディー・マラーティとは違うし、綴りによって発音の仕方が全く変わってしまうから難しい。一方でムンバイでの生活はヒンディー・マラーティが使えればやっていける。
何か特別な教育…例えば塾(tuition class)や英語で教科を教える私立学校に行かなければ、子どもたちはなかなか英語を使えるようにならない。けれど、将来収入の良い仕事に就くには、英語が必要だ・・Nプロジェクトの英語レッスンには、そんな背景があったように思う。
先生たちの英語レベルから透けて見えるN G O本部の思惑?
実際のところ、そんな子どもたちに英語をサポートする立場のNプロジェクトの先生たちですら、英語をちゃんと使いこなせる人は稀だった。
例えば、N校に行ったとき何度か、他の学校からもNプロジェクトの先生たちが20〜30人くらい集まって(全員女性)、話したり事務作業をしていたことがあった。
でも、その中で英語が話せたのは20代くらいの先生一人だけ。
もちろん、私とメジが通ったN校・S校の先生たち(30〜40代)は4人ともほとんど英語が喋れなかった。
(だから、先生たちと私たちの意思疎通は、メジの慣れないヒンディー語頼み。ちなみに、メジの母語は彼女の生まれ故郷ナガランドの言葉。そしてメジと私の会話は英語。)
そんなふうに先生たちですら英語ができないのに、それで生徒たちの英語学習をサポートしろというのは、A財団の本部はどういう了見だったのだろう?
後で分かったことだけど、Nプロジェクトの先生たち自体、女の子たちと同じような貧困層、もしくはちょっとマシなくらいの暮らしの人たちだった。
先生たちの雇い主である財団は、なんで先生たちに英語教育をしないのか?
そもそも、なぜ英語のできる先生を雇わないのか?
と疑問に思った。
実際、少しは先生たちへの英語研修があったらしい。
一握りの有望な人たちのみ。
S校のプシュパ先生も、その研修に参加していた。(残念ながら、それでもプシュパ先生の英語もそんなにコミュニケーションできるレベルではなかったのだけれど。)
いろいろ考えていくと、資金が潤沢にあるように見えるA財団の事務所と、先生も英語のできないNプロジェクトの現場が対照的に見えてくる。
Nプロジェクトの先生(コミュニティ・アクティビスト)になるには、書類審査と算数・英語のペーパーテストがあると聞いた。しかし、先生たちの実情を見た限りでは、英語のテストに関してはあまりレベルは高くなさそうだ。
A財団は、もっとプロジェクトの先生たちの教育に時間とお金をかけてもいいんじゃないかなと思った。あと、先生の数も増やしていい。子ども40〜50人に対して先生2人じゃ、正直足りてない。
でもその反面、インド人はしたたかだから、もしNプロジェクトの先生たちが英語を喋れるくらいの実力が付いたら、彼女たちはもっとお給料の良い仕事に流れてしまうのかも・・と想像したりもする。
(Nプロジェクトの先生のお給料は知らないけれど、きっと安いと思う。そして、お給料が安いから英語が喋れるような人材は寄ってこないのかも・・。)
財団、N G Oの話に関しては、いろいろと憶測ばかりの話になってしまったけれど、実際はどうなのでしょう。
結局のところ、英語が話せる人ほど、その家の経済力が高い傾向にあるんだろうな・・というお話でした。
蛇足。
今回のタイトルの「英語力=そのお家の経済力?」が当てはまらない人たちもインドにはいる。
それは、もともと英語が母語の人たち(コミュニティ)。
キリスト教徒の一部や、イラン系のゾロアスター教の人たちがそう。
こういう人たちは、家庭の経済力に関わらず、初めから英語が話せる。
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